「世界の『?』が止まらない。科学ミステリー5選」

Science Mysteries

未解明の科学ミステリー 5選

130年間謎だった生物、体が記憶を持つ生き物、伝染する癌——
科学がまだ答えを出せていない不思議な現象たち。

01

パレオスポンディルス
——130年間、誰も正体を知らなかった謎の生物

3億9000万年前 / スコットランド発見 / 体長5cm未満

1890年、スコットランドのデボン紀(約3億9000万年前)の地層から、体長5cmにも満たない奇妙な化石が発見された。名前はパレオスポンディルス——「古代の背骨」という意味だ。

しっかりとした背骨を持つこの生物だが、発見当初から研究者たちを困らせ続けてきた理由がある。顎も歯もなく、ヒレもないのだ。まだ陸上動物が少なかった時代、この生物はおそらく魚の仲間だと考えられてきた。しかし魚にヒレがないとはどういうことか。

POINT顎がないことから、ヤツメウナギのような無顎類では?という説や、ヒレがないのは子供だから(幼生)では?という説も出たが、いずれも決め手を欠いた。学界では長らく「古生物学会の迷子」と呼ばれていた。

事態が動いたのは2022年、日本の理化学研究所のチームによってだ。強力なX線を使って化石を壊さずに内部をスキャンし、精細な3Dデジタルモデルを作成。詳細なデータを解析した結果、パレオスポンディルスは四肢動物(現在の陸上脊椎動物)に最も近い魚のグループに属することが判明した。

つまりこれは、魚が陸に上がる過程でのミッシングリンクだった。人間、トカゲ、鳥、犬——陸上に上がって背骨を持つすべての動物の、直系の先祖にあたる可能性がある生物だったのだ。130年越しの発見である。

なぜ顎がなく、ヒレもないのかは未だ不明
02

プラナリアの記憶
——頭を切り落としても、体は覚えている

淡水生物 / 体長1〜2cm / 再生能力の持ち主

淡水に住む体長1〜2cmの扁形動物、プラナリア。最大の特徴はその驚異的な再生能力だ。半分に切ると2匹になり、3つに切ると3匹になる。全身の約30%が「幹細胞」で構成されており、切断されてもそれぞれが完全な個体として再生する。過去の実験では数百個に切断しても、すべてが完全に再生したという記録もある。

ここからが本題だ。記憶は脳に宿るのか、それとも体全体に宿るのか?アメリカの大学が行った実験がある。

実験の手順プラナリアは本来暗い場所を好み、明るい場所が苦手だ。そこで研究者たちは「でこぼこした明るい場所に餌がある」という条件付けを数日間繰り返し、プラナリアを学習させた。訓練後、プラナリアは苦手な明るい場所でもスムーズに餌を取りに行けるようになった。

そして首をスパッと切り落とす。脳(記憶)は頭側についているはずだから、体側には記憶がないはずだ。2週間放置すると、体側から新しい頭が再生した。この「記憶のないはずの個体」を、同じ明るい場所に置いてみた。

最初は動かなかった。やはり記憶はない、再訓練が必要か——と思ったところで、1回だけ訓練を与えてみると、まるで最初から訓練済みだったかのように、すぐに元のスピードで餌を取りに行ったのだ。

「忘れていたけど、思い出した」という行動である。記憶は脳だけでなく、体全体に分散して保存されている可能性がある——研究者たちはそう結論付けつつも、そのメカニズムはいまだ解明されていない。

記憶がどこにどのような形で保存されているのかは不明
03

伝染する癌
——他の個体にうつる、あり得ないはずの腫瘍

タスマニアデビル / 犬 / 免疫システムの謎

癌は「伝染しない」——これは医学の常識だ。癌は自分自身の細胞がコピーミスを起こして暴走したもの。他人の細胞が体内に入っても、免疫システムが「これは自分じゃない」と排除するため、他者にうつることはない……はずだった。

しかし自然界には、それが起きている動物がいる。

  • タスマニアデビル(DFTD):1996年に初確認。気性が荒く、餌を奪い合う際に互いの顔を噛み合う。この噛みつきが感染ルートとなり、腫瘍細胞が傷口から侵入・増殖する。発見から約20年で個体数が半減した。
  • 犬(CTVT):交尾による接触で感染する癌。遺伝子解析の結果、この腫瘍細胞はなんと1万1000年前から存在していることが判明。世代を超え、国を超え、今も世界中の犬に伝染し続けている。

なぜ免疫システムが「他者の細胞」と認識しないのか。タスマニアデビルについては、島という閉じた環境での近親交配が続き、個体間の遺伝的差異が小さくなったことで免疫が「自分の細胞に似ている」と誤認している可能性が指摘されている。

だが犬のCTVTは謎が深い。1万年以上、一つの腫瘍が「生き延び」ながら世界中を旅し続けているのだ。ウイルスでもなく、細菌でもなく、癌細胞そのものが一種の生命体のように存続しているという、常識を超えた現象だ。

なぜ免疫が他者の細胞を排除しないのか、メカニズム不明
04

クラウンシャイネス
——木々は、なぜ互いに触れ合わないのか

森林 / 樹冠の譲り合い / 特定の樹種で発生

森の中で空を見上げると、木々の葉が茂っているのに、隣の木と不思議と触れ合っておらず、パズルのピースのような隙間ができていることがある。これがクラウンシャイネス(樹冠の譲り合い)だ。

「クラウン」は木の冠(樹冠)、「シャイネス」は遠慮・恥じらいという意味。まるで木同士がお互いに気を遣っているように、ぎりぎりのところで成長を止めている。

なぜ起きるのか(仮説)①風で揺れた枝同士が摩擦でぶつかり、傷ついた部分が枯れた結果できた隙間(物理的説明) ②植物が持つ「フィトクロム」という光受容体が隣の葉を感知し、自発的に成長を抑制している(光センサー説)

もし木が意図的にこの隙間を作っているなら、大きな利点が2つある。一つは光合成の効率化——重なりがないことで下の葉まで光が届く。もう一つは病害虫の拡散防止——葉が繋がっていなければ、芋虫などが隣の木へ移動しにくくなる。

ユーカリや松など特定の樹種で見られることが多く、観察はできても、なぜそれが起きるのか、そしてどうやって実現しているのか、まだ明確な答えは出ていない。

意図的な制御なのか物理的結果なのか、結論未達
05

しゃっくり
——なぜ起きるのか、誰も本当には知らない

横隔膜の痙攣 / 哺乳類のみ / 進化の痕跡?

誰でも経験があるのに、なぜ起きるのかがわかっていない現象——それがしゃっくりだ。

メカニズム自体は解明されている。胸とお腹の間にある筋肉の膜、横隔膜が何らかの拍子に痙攣する。すると肺に一気に空気が吸い込まれ、なぜか喉の奥の声帯がピシャッと閉じる——この動作が「ひっく」という音を生む。呼吸システムのバグのような状態だ。なお横隔膜は哺乳類にしかなく、焼肉の「ハラミ」は牛の横隔膜である。

問題はなぜこれが起きるのかだ。特に病気を引き起こすわけでもなく、なくても困らない。そのため医学会では長らく「意味のない現象」として真剣に研究されてこなかった。

有力な仮説 2つ進化の名残り説:私たちの遠い祖先(両生類)がエラ呼吸と肺呼吸を切り替えていた頃、水を吸いながら声帯を閉じる動作が必要だった。その名残りが現代にも残っているという説。②赤ちゃん説:赤ちゃんや胎児は大人より頻繁にしゃっくりをする。胃に溜まった空気を効率的に排出し、より多くの母乳を飲めるようにする機能があるという説。また、横隔膜を鍛える呼吸練習になっているとも。

どちらの説も「なるほど」と思わせるが、決定的な証明はされていない。毎日どこかで誰かが経験している現象が、科学的にはいまだ謎のままなのだ。

しゃっくりが起きる根本的な理由は未解明